2022/02/11 05:00
バンギャを卒業したのは、
もう三十路をとうに超えてからであった。
周りはほとんど結婚していて、
していない人もバツがついていたり、
キャリアを取りバリバリ働いているかの
どちらかだった。
私は遠征に行きやすいように、
バイトや派遣で働き、正社員というものに
一度もなることなく、いい歳になってしまった。
ずっと一途にバンドを追っかけていたので、
彼氏というものを作る暇がなかった。
そうして、どうやったら異性に出会えるのか
すっかりわからなくなっていた。
職場も転々としていたし、
友達も私のような馬の骨に
紹介してくれる筈もなく。
急に焦り出した。
このままおばあちゃんになって、
独りで孤独に死んでいくのか、と。
そこでふと目が行ったのは、
とある結婚相談所の広告だった。
冷やかし半分、これも人生経験と思い、
無料相談に行ってみた。
いきなり入り口にウエディングドレスが飾ってある
結婚相談所。
軽い目眩を覚えながら、担当者に挨拶。
50代後半と思われる女性は、
いかにこのシステムが素晴らしいかを語る。
どんな人が合うのかアドバイスもくれる。
ひどい勧誘は無かったが、
そのうまい口調に引き込まれてしまい…。
入会金は決して安く無かった。
サラリーマンの月給まるまる一ヶ月分位。
そして、最初に紹介された人に会うことになった。
ホテルのロビーで待ち合わせ。
併設のカフェに入る。
小柄な男性だったが、清潔感もさほど無かった。
話術もなく、沈黙するたびに話を振った。
お昼になり、ランチへ行くことに。
少し小洒落たイタリアンレストラン。
二人でパスタを頼んだ。
料理が来た。
が、相手が食べない。
モジモジして、何か言いたげだ。
「どうされました?」
と聞いて欲しそうだったので、
そのままぶつけてみた。
「あのぅ、僕、おはしでしか食べられないんです」
頭の中で、何か乾いた音がした。
と、とにかくおはしを貰ってあげて、
食べ終わり、解散した。
本当の意味で、解散した。
それから、何か自分が気持ち悪くなった。
よく考えると、そんなにモテない人生では
無かった気がする。
憑き物が落ちたように、吹っ切れた。
恋愛や結婚の出会いは、
自然と出会うのが一番だと。
それまでは自由に過ごしてみようと。
おかげで、一人日本全国を回ることができた。
ハワイへも単身渡り、
新婚旅行客に紛れて
ロマンチックなツアーにも参加した。
…現在に至る。