2022/02/16 03:03
二年前、とある出会いで、
一日だけ恋をしたことがある。
いわゆる「ワンナイトラブ」ではなく、
駅で朝、待ち合わせて遊んだ。
普通の恋人同士のデートのように。
「待ちきれないから、少し早めに会わない?」
と、10時の待ち合わせを9時前に変更。
朝の駅は人に溢れていて、
初めて会う彼を見つけられるか不安だったが、
割とあっさり出会うことができた。
髪をアッシュにした、なかなかのイケメン。
挨拶もそこそこに、歩き始めた。
少し歩いて、タクシーに乗った。
行きたいところがあるから調べてきたと、
中学生の初デートのように
計画を立ててきた彼が可愛かった。
到着したのは、ホテル街だった。
「そこかよ…」
と思ったが、正直でいい。
その中の一軒に入った。
愛し合った後、
シャワーも浴びずに部屋を出た。
時間はお昼。
ランチにでも行こうと言う事になり、
雰囲気のいいイタリアンに。
体格のいい彼は、パスタとピザを食べた。
私はパスタだけ。
とてもおいしかったと記憶している。
そこからカフェに。
お互い喫煙者だったので、食後の一服のために。
他愛もない話をした昼下がり。
さあ、どこへ行こうか。
行き着いた先は、先ほどまで過ごしていた
ホテル街だった。
「またそこかよ…」
と思ったが、まあいい。
適当に入った部屋で、甘いひと時を過ごした。
もう、ずっと前から付き合っていると
思い違うほど、スムーズに。
時刻は夕方を少し過ぎ、
次の日の仕事が早いという事で、
早々に解散した。
さよならとは、言えなかった。
またね、と言った。
帰宅後、メールをしてみると、返信が無かった。
「ああ…そういうことか」
なんとなくこうなる予感はしていたため、
さほどショックはなかった。
たった一日でも、素敵な恋をした私は
それだけで満足だった。
それ以上望んではいけない。
遊ばれたと言われればそれまでだが、
いつものワンナイトラブとは違った、
何となく昔から付き合っていたかのように、
本当に落ち着けたし、幸せだった。
次の日、そっと連絡先を消去した。
思い出は消去せずに、胸にしまった。
また日常に戻った。
最近ふと彼を思い出す。
元気にしてるかな。
変な新種の感染症になってないかな。
色々と考えたりするが、ひとつだけ
思い出せないことがある。
それは彼の名前。
お互いニックネームで呼んでいたが、
ちゃんとした名前も教えてくれた。
今はもう、ニックネームも思い出せない。
調べる術もなく、連絡先を消去したのを後悔した。
貴方は私を覚えていますか?
猫柄のピンクのワンピース着てた私を。
夢でもいいから、出てきて名前を教えてください。
素敵な思い出に、名前をつけるために。